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【棚主インタビュー】本と人が出会う仕組みをつくる|リブライズ・Zindies開発者、地蔵真作さんが考える「技術」と「コミュニケーション」
更新日時
2026/7/2 05:44
公開日時
2026/6/16 07:45

本を借りる。
ZINEを手に取る。
クリエイターに会いに行く。
そこで交わした言葉や、ふと生まれた興味が、次の出会いや新しい表現につながっていく。
「本」と「人」と「場」のあいだにあるコミュニケーションを技術で支えている方がいます。
ゼロイチビレッジのシェア本棚オーナーであり、私設図書館やブックスポットを支えるサービス「リブライズ」、そしてZINEの流通プラットフォーム「Zindies(ジンディーズ)」の開発者でもある、地蔵真作(ちくら しんさく)さん。
今回、本棚オーナーさんの新しいチャレンジを紹介する企画として地蔵さんにお話を伺いました。
リブライズが生まれた背景、Zindiesに込めた思い、そしてAI時代におけるサービスづくりの変化について。
お話を聞いて見えてきたのは、単に便利なシステムを作るだけではなく、社会をより面白くするために、人と人のコミュニケーションを技術で支えようとする姿でした。
人と関わる技術を考えてきた根本にあるもの
地蔵さんは自分自身のことを「歌って踊れるプログラマーです」と冗談交じりに話したことがあるそうです。
いわゆる寡黙な技術者というより、人と話すことや、場に関わることも好きだったといいます。
プログラムを書く作業自体は一人で行っていましたが、その技術をどこに使うのか、誰のために使うのかはずっと考えていました。
仕事として依頼されたものを作ることも大切ですが、それ以上に、自分自身が面白いと思える領域で何かを実現したいという気持ちが昔から強くあったといいます。
その延長線上で大学卒業後には友人と会社を立ち上げ、学級新聞を作るためのソフト開発にも関わりました。Windowsが登場するよりも前、当時としてはとても挑戦的な取り組みでした。
結果として大きく成功したわけではなかったものの「自分たちが面白いと思える領域に技術を使う」という感覚は、その頃から地蔵さんの中にありました。
地蔵さんが大切にしているのは社会とコミュニケーションの領域にある課題を、技術で支えること。
ただ、それはSNSのような巨大なコミュニケーションサービスを作りたいという意味ではありません。
多様な人々がコミュニケーションを取ることで、社会が少しずつ面白くなっていくのではないか。そうした感覚を、昔から持っていたといいます。
コミュニケーションを支える基盤を技術で作ることに価値を感じており、その考え方は現在運営しているサービス「リブライズ」にもつながっています。
リブライズは身近な貸出管理の実現から始まった
リブライズはゼロイチビレッジでもシェア本棚の本を貸し借りする仕組みとして活用しています。
その始まりは、地蔵さんご自身が関わっていたコワーキングスペース「下北沢オープンソースCafe」で本の貸出管理をしたいというごく目の前の、身近な課題でした。しかし、その小さな課題を解決していく過程で思いもよらない世界が見えてきたといいます。
本の貸出管理という仕組みが、結果として他のコワーキングスペースやコミュニティ支援にも役立つのではないか。そうした発見が後から生まれていきました。
そして2012年9月からサービスを開始したリブライズは、現在では全国3,000箇所にまで導入されるサービスとなりました。

Zindiesは作品を生み出すクリエイターを大切にしている
リブライズに続いて地蔵さんが現在力を入れているのが、ZINEの流通プラットフォーム「Zindies」です。
Zindiesで目指しているのは「楽しい作品が続々と生まれてくる世界を作ること」。そのためには、作品を作るクリエイターが一番最初にあり、それを届ける・広めるための店舗があり、読む・購入する読者がいます。その3者はそれぞれ大事な役割ですが、一番大事にしたいのは「クリエイター」かなと思います。
地蔵さんはクリエイターを大事にしたい理由について、2つの側面を話してくれました。
ひとつは、たくさんの新しい作品が生まれていく様子を見たいという気持ち。
もうひとつは、クリエイターを起点にすればその先に店舗、読者、イベントなど、さまざまな可能性が広がっていくという考え方です。
店舗は基本的に出来上がった作品を仕入れる立場になります。一方で、クリエイター側に立つことで、作品が生まれるところから、その先の展開まで関わることができます。
だからこそZindiesはクリエイターを起点にしたサービスとして動き出しました。

「出口」が見えた瞬間Zindiesは動き出した
Zindiesの誕生以前には地蔵さんが取り組んでいた別の構想がありました。
ZINEなどのインディーズ作品の情報を集めたデータベースのような取り組みです。
しかし、そこで一度立ち止まることになります。
図書館関係者には比較的受け入れられた一方で、一般の利用者にとって魅力的なものにはなりきれませんでした。
データベースを作って誰が使うのか。
クリエイターが作品を登録したとしてその人に何を返せるのか。
地蔵さんは、その問いにうまく答えられなかったといいます。
自分自身が好きだから作っていた。しかし、自分が好きなことをやるだけでは、サービスとしては成立しない。クリエイターに十分な価値を提供できないのであれば、登録してもらう理由も弱い。
そう考え、この構想はいったん閉じることになりました。転機になったのが、名古屋の書店「Nagoya BOOK CENTER」の店長、藤坂康司さんとの出会いでした。
地蔵さんがこの取り組みについて話したところ、藤坂さんから「本屋さんはこれ欲しいです」という反応が返ってきました。
その瞬間に地蔵さんは、「出口があった」と感じたそうです。
クリエイターが作品を登録するだけでは閲覧されて終わってしまう。しかし、本屋という受け皿があれば、作品と出会う場所が生まれる。
データベース単体だったものが、クリエイターと店舗をつなぐマッチングサービスとして成立するようになったのです。
そこから人材紹介やマッチングサービスの仕組みまで研究するようになり、さまざまなアイデアが生まれていきました。
クリエイターが作品を登録し、本屋がそれを見つけて取り扱う。昨今はZINEを置き始める本屋も少しずつ現れている一方で、まだ取り扱っていない店舗も多くあります。
「それならやってみよう」、そしてZindiesがスタートしました。
会った証を残すZindiesカードの試み
Zindiesでは現在、「Zindiesカード」という新しい取り組みも進んでいます。これはカードにスマートフォンをかざすことで、クリエイターや店舗の情報にアクセスできる仕組みです。
Zindiesカードにはいくつかの発想の源泉があります。
まず大きかったのはNFCカードの技術との出会いでした。自身が参加したイベントで、カードにスマートフォンをかざすだけで情報を読み取れる仕組みに触れたといいます。
当初は単なる技術として見ていました。しかし「タッチする」という行為には重要な意味があることに気づきました。
カードにタッチするためには目の前に相手がいなければなりません。
地蔵さんが面白いと感じているのは、この「カードをタッチする」という行為に、実際にその人に会ったという体験が含まれていることです。
そして人に会ったという体験をデジタル上に残せるのではないかと考えるようになりました。
たとえばZINEフェスでクリエイターと出会い、その熱量に触れた体験を、何らかの形でスマートフォンやサービス上に蓄積する。参加者同士で余韻を楽しんだり、後からもう一度その出会いをたどったりできる場があれば面白いのではないか。
そうした発想がZindiesカードの出発点になっています。
人と出会った後にコミュニケーションが続いたり、「あの作品、面白かったですね」「次はどんな作品を作るのですか」といったやり取りが生まれたりする。
そんな場を作れたら楽しいのではないかと地蔵さんは考えています。
サービス開発にAIがもたらしたものとは
プログラマーである地蔵さんに技術についても伺いました。
地蔵さんは、近年のAI活用によってサービス開発のあり方が大きく変わったと話していました。
もともと地蔵さんは裏側のデータベースや仕組みづくりを得意としてきました。一方で、デザインや表側の画面づくりは得意ではなかったといいます。
しかしAIを使うことで、以前なら自分一人では難しかったデザインのリニューアルや画面づくりにも取り組めるようになってきました。
プログラムもすべてを手で書くというより、AIに指示を出し、できたものを確認し、修正していく形に変わってきているそうです。
その結果コードを書く時間を減らし、実際にZINEフェスへ行ったり、クリエイターや店舗に会いに行ったりする時間も取りやすくなったといいます。
AIがあるから人に会わなくてよくなるのではない。AIによって作業の一部が軽くなることで、むしろ人に会いに行く時間を増やせる。
Zindiesのようにリアルな出会いを大切にするサービスにとって、AIは人間らしい活動を支える道具にもなっているのだと感じました。
書店ではない場所に、ZINEがある未来
Zindiesのこれからについて伺う中で地蔵さんが何度もお話ししていたのが書店ではない場所にZINEを広げていく可能性です。
たとえばカフェ。
旅行記でも、日記でも、独り言でも構わない。誰かが考えたことや体験したことが書かれた小冊子が、カフェの棚に何十冊も並んでいる。
コーヒーを飲みながらそれを手に取り、読み終わったら棚に戻して帰る。
そんな体験は本を読む体験とも少し違う魅力があるのではないか。
単に本を売るのではなく、空間を和ませたり、人の気持ちを動かしたりする存在としてZINEを捉えることができる。
だからこそ本当に届けたいのは「ZINEそのもの」だけではなく、そうした体験や価値なのだと語っていました。
本屋の片手間でZINEを扱うという発想ではなく、「人の言葉や思いに触れる体験」を届けるサービスとして、Zindiesを広げていきたい。
そこにZINEの新しい可能性があります。
続けるためには社会性だけでなく収益も必要
リブライズもZindiesも社会的な意義を持つ取り組みです。一方で地蔵さんは、続けていくためには収益の仕組みも必要だと率直に話していました。
社会に役立つことと運営を続けられることを切り離さないこと。これはリブライズを長く続けてきたからこその実感でもあります。
現在の大きなテーマとして「どうやってこの活動を広く知ってもらうか」という課題があります。
書店業界は利益率が低く、新しいサービスにお金を払う余裕があまりない場合も多いといいます。実際、以前リブライズを導入してもらおうとした際にも、「無料なら使いたい」という反応が多かったそうです。(もちろん、書店側に悪意があるわけではありません。経営環境が厳しいからこその現実です。)
だからこそZindiesカードや、カフェなどへの展開も事業として続けていくための可能性として考えられています。
「新しいZINEがたくさん生まれる世界」をつくる
最後に地蔵さんはZindiesのこれからについて、「新しいZINEがたくさん生まれる世界をつくりたい」という思いを話してくれました。
ZINEを作る人が増える。
作った人がZindiesに登録する。
店舗や読者がそれを見つける。
イベントやワークショップを通じて、また新しい作り手が生まれる。
その循環が各地で起これば、ZINEはもっと面白くなっていきます。
ゼロイチビレッジでもZINE作りワークショップを開催してきました。実際に、ワークショップをきっかけにZINEを作り始めた方もいます。
地蔵さんの取り組みはZINEを作る人の背中を押すだけでなく、その作品がどこかで誰かと出会うための道を少しずつ整えているのだと思います。
リブライズは、本の貸し借りを支える仕組みです。
Zindiesは、ZINEのクリエイターと店舗、読者をつなぐ仕組みです。
Zindiesカードは、実際に会った体験を後からたどれるようにする仕組みです。
そのどれもが、技術そのものを前面に出すというより、人と人、人と本、人と場が出会うための仕組みをつくるものでした。
小さな課題から始める。
面白いと思ったことを形にする。
作りながら、出会いながら、少しずつ方向を変えていく。
そしてそこに関わる人が増えることで、最初には見えていなかった景色が見えてくる。地蔵さんのチャレンジはゼロイチビレッジが大切にしている「最初の一歩を動き出すこと」にも重なります。
Zindiesがこれからどんな出会いを生み出していくのか。これからの広がりがとても楽しみです。
ZINEを作っている方、これから作ってみたい方は、ぜひZindiesを覗いてみてください。作品を登録することで、店舗や読者との新しい出会いが生まれるかもしれません。